INTERVIEW

「仏教」「クラゲ」「巫女」「鎌倉」
なんのこと? と、頭をひねってしまうかもしれませんが、これらはLUMi をあらわすキーワード。
清らかな水の中でゆらゆら、ふわふわ漂っているような、心地の良いディテールのLUMiのビジュアルは、深山フギンさんに手がけていただきました。

深山フギンさんは、漫画『オーバーロード』、『交響詩篇エウレカセブン ニュー・オーダー』の作画や小説の挿絵などで大活躍中の漫画家、イラストレーター。

LUMiという新しいVOCALOIDのビジュアルは、どのようにして生まれていったのか?
キャラクターデザインの制作秘話をフギンさんに伺いました。

LUMi に感じる、「生きるための死」

ーー現在、漫画も連載中でご多忙のフギンさんですが、LUMi のデザインをしたいと思った理由を教えてください。

深山フギン(以下、フギン)

「体内に取りこむものによって姿・形を変え、生と死を繰り返す」
というLUMi の設定に心を惹かれました。
クラゲ、宗教、水といった、自分の好きなモチーフが目一杯入っていたのも大きな理由ですね。
もともと風や水、草などの、自然をもとにしたモチーフが好きなんです。

ーー他の仕事と比べて、LUMi プロジェクトの進み方は違いましたか?

フギン

他の仕事だと大抵の情報が揃っており、割と最初からイメージが固まっていることが多いかもしれません。
ですが今回は、かなり初期段階から関わっているので特殊なかたちでキャラクターデザインを進めてきました。とはいえ、こちらから提案したことも受け入れられる場合も多いので、仕事の進め方として新鮮で楽しいです。

最初は繊細で、弱々しいイメージだったLUMi ですが、今は弱いというよりもおっとりという印象なので、制服姿のスカートの丈やニットのダボっとした感じなど、性格にそのままつながりそうな部分もわたしから提案させてもらっています。

ーーキャラクターの設定要素も提案されるようなイメージですね。LUMiをデザインする上で、大事にしたポイントを教えてください。

フギン

最初はとにかく弱々しく、すぐに潰れてしまいそうなイメージでラフを書き起こしていたんです。
しかしその後、LUMiの世界観が仏教に影響を受けていると聞いたので、そのキーワードをもとにデザインを膨らませていきました。

全体のトーンとしては、見ていて心地よいと感じていただけるデザインを意識していて、頭のうえの触手をはじめ、全体的になめらかにまとめるように気をつけています。

ーー初めてLUMiの話を聞いたときに感じた印象と、今のLUMiの間に変化はありますか?

フギン

LUMiの「傷つきすぎると死んでしまいクラゲの姿になってしまうが、しばらくすると体が再生して元のヒトの姿に戻る」という設定要素が大きいとは思いますが、最初に頭の中に浮かんだイメージは、人間と同じように痛みや悩みを抱え、時には喜び、時には悲しみ、ひたすらに生と死の海をたゆたう、とても繊細な女の子でした。

はじめは悩みや痛みを抱える人を救ってくれるというよりも、暗くて引っ込み思案で、その闇にただ寄り添ってくれる存在……例えると「死」のイメージが強かったです。
ですが、今のLUMiは痛みを理解し解決に導くための光を与えてくれる、明るくて「生」にひたむきな存在だと感じています。
ですから、最初と今との変化は、死と生のバランスが変わったことでしょうか。

ただ、LUMi =死というイメージは今も変わらずあるので、わたしの中のLUMiを表すキーワードがあるとしたら、「生きるための死」かもしれません。

イメージ通りにデザイン出来たのは、全部

ーーLUMi の「仏教」「クラゲ」といった一風変わった設定のキーワードはどのようにして決まったのでしょうか。

フギン

わたしも最初「仏教」と聞いたときは、なかなか無いテーマなので驚いたのですが、このキーワードはLUMiを企画したAVA の吉澤さんからいただいているものですよね。
どうしてこういったキーワードを選んだんですか?

AVA 吉澤(以下、吉澤)

僕自身のプライベートな出来事でちょっと大変な時期があって、それをきっかけに仏教にすがったのが大きな理由です(笑)。

実は、LUMi の設定を考えるにあたってもともとは菩薩をイメージしていたんです。
※菩薩とは悟りを目指す人。悟った人は仏陀(ぶっだ)=仏様となる。

それと並行して、ビジュアルのモチーフになる生き物をリサーチしていたら、ちょうどベニクラゲを見つけたんです。
LUMiの不老不死という設定は、そもそもベニクラゲからきています。
ベニクラゲって、厳密に言うと若返りではあるらしいのですが、死ぬのではなくポリプになるので、不老不死のクラゲと呼ばれることもあるんですよ。もちろん、他の生き物に食べられてしまうなど、外的要因によって死を迎えることはありますが。
※ポリプ…クラゲやイソギンチャクなどをはじめとした刺胞動物のうち、着生生活を行うもの。

クラゲはビジュアル的にもキャッチーですし、ベニクラゲの特殊な性質と菩薩や仏教は何かしら近いのではという観点から、設定を作りこんでいきました。

ーーデザインを進める中で大変だったのは、どういった点でしょうか。

フギン

今は人間味のあるデザインのLUMiですが、最初は目も鼻も人間のような指もなく、人の形を模したクラゲでした。

それをキャラクターとして成立させるのにはかなり苦労した憶えがあります。

途中から高校に通う女の子という設定が決まっていき、今のLUMiへとどんどん近づいていきましたが、もともとの鍵となったベニクラゲというイメージ要素は消えていません。

ベニクラゲと人間らしさのバランスは妥協したくない、というわたし個人の想いから、随所に努力の跡があります。

ーーフギンさんのイメージ通りにLUMi のキャラクターデザインに落とし込めた部分はどこでしょうか?

フギン

…全部ですね(笑)。
わたしとLUMiは、すぐ傷つくところなども似ていますし、イメージがばっちりはまった感覚は常にありました。
ただ、やはりみんなに愛されるキャラクターであるべきではあるので、そこをデザインで表現するバランスはちょっと悩んだ部分でもありますね。

ーー最後に、これからのLUMi に期待する点を教えてください。

フギン

こうやって生まれたLUMi が、この先どんな活躍を見せてくれるかは、わたし自身も楽しみにしています。この先LUMi がいろいろなことを経験して一人前になり、たくさんの人たちを救う存在になることができればうれしいです。

INTERVIEW / TEXT BY AYUMI YAGI

深山フギン漫画家
キャラクターデザイナー

『交響詩篇エウレカセブン ニュー・オーダー』のコミカライズ、『異世界落語』のキャラクター原案など幅広く活躍。
現在コンプエースにて『オーバーロード(原作:丸山くがね/キャラクター原案:so-bin/漫画版脚本:大塩哲史)』連載中。