INTERVIEW

LUMiは他のVOCALOIDと大きく違う点を持っています。それは、鎌倉で暮らす、少しおせっかいな優しい女の子LUMiの世界の物語があるということ。

LUMiの物語を描いているのはAVA代表の吉澤。もちろん、作家のような活動をするのは初めてです。そんな吉澤が自分の分身のような物語・キャラクターを世に出すのを支えたのが編集者の佐渡島 庸平さんでした。LUMiは作家と編集者によって、その世界の解像度がどんどんあがってきています。

キャラクターは、物語は、何をどうすれば正解なのかーー。今回は、『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などの大ヒット漫画を手がけた編集者であり、クリエイター・エージェンシーの株式会社コルクにて代表を務める佐渡島さんに物語づくりのポイントや作家と編集者の関係について伺いました。

経営者同士から、クリエイターと編集者の関係へ

——AVAの会社理念からLUMiの曲の歌詞まで、幅広く編集として携わっている佐渡島さん。どのようにしてこの体制は始まったのでしょうか?

佐渡島 庸平(以下、佐渡島)

なし崩し的にですよ(笑)。そもそもはAVAの吉澤さんがコルクにインターンに来たのがきっかけです。吉澤さんに最初会った時は、完全にビジネスの人と思っていました。

——ふたりの最初の関係は編集と作家ではなく、経営者同士だったんですね。

佐渡島

そう。LUMiは最終的なビジネスとしては大きくできる可能性はあるものの、つくったことのない人がキャラクターをつくるのは無理そうだなと、僕は端から見ていたんです。だけど吉澤さんと話せば話すほど、結構クリエイター気質なことに気付いたんです。小説や原作を書いて、当たるものをつくる素質を心の中に持ってるなと、僕がある種、作家認定をしたんですね。そこから吉澤さんとはクリエイターとして接するように変えました。今はほとんど会社の経営者同士ではなく、いち新人作家と編集者の関係です。

いち新人作家がつくっているキャラクターとしてLUMiを見ると、ビジネス的にこうあってほしいというのが、表に出すぎていて、クリエイターとしての本音がLUMiに表れていなかった。LUMiの世界観に出てくる全てのキャラクターは、吉澤さんの分身になっていないといけないんです。その時に「AVAは吉澤さんを作家として育てて、その人がつくり出したキャラクターを世の中の人が自由に使ってつくって楽しむというビジネスをやろうとしているんだな」ということがわかってきました。

だとしたら吉澤さんの作家部分を鍛えたら良いので、一切吉澤さんに結びついていない言葉が入っている箇所に「これってどっかから借りてきてるんじゃない?」といった指摘をやってきました。

——佐渡島さんのアドバイスによって、吉澤さんが描いていたLUMiの世界に変化はありましたか?

佐渡島

多分そこは変わっていません。作家って「頭の中に世界がある人」なんです。だから、吉澤さんのなかにはもうLUMiがいるんですよ。その世界の中で、何にどういう風に光をあてるか?という、世界観のピックアップの仕方を、新人は間違える。だから、他の人もこの世界にトリップしたくなるよう、ここへの引き込み方を考えましょうと説明します。吉澤さんの頭の中にある世界にどうやって連れ込むか。そこはもうビジネス的なところじゃなくて、LUMiを好きにさせないとダメなんだよね。

佐渡島

日常会話って、伝わってなくても進むんです。コミュニケーションは前提としてミスるんですけど、コンテンツは作家が読者とのコミュニケーションをミスったら売れません。だから、たとえば吉澤さんにあらすじを3行で言ってもらって、僕の頭の中に何もイメージが湧かなかったらそれはもうダメです。

作家に才能があるかどうかって、頭のなかに世界があるかどうかなので、他人の漫画を読んでつくっている人なのか、自分の頭のなかの世界を描いている人なのかを見分けるのが新人発掘のコツです。他人の作品見て上手く描いてる人も、ちょっといいかなって思っちゃうんですけど、伸びないんですよ。勉強して描いてるだけなので。

——それを見分けるコツは?

佐渡島

そこは経験値ですね。自分の頭のなかの世界への入り口ができたら、今度は頭の中にある世界を広げる。最近同じところをぐるぐる回ってるから、もうちょっと移動したら?って移動を促すんですよ。そして、頭の中で移動するためには、主人公の周りに移動を助けるキャラクターが必要なんです。だから次は、こういうキャラつくったら?とか、こういう人いたら便利じゃないの?というアドバイスをします。こっちも、それによってどこに行くかは知らないんですけど(笑)。

クリエイターは頭の中に世界があり、そこへの入り口のつくり方が下手である。さらにその頭の中にある世界を旅する方法をまだそんなに知らないと思うと、編集者のやる仕事も可視化できるはずです。

編集者は、歪みのないクリエイターの鏡

——佐渡島さんの著書 「ぼくらの仮説が世界をつくる」では、ひとりの仮説が革命を起こすとありましたが、LUMiで描いている仮説は?

佐渡島

LUMiに限らず全体的に、ファンがキャラクターを育てていくようにコンテンツのあり方は変わっていくだろうなと思っています。そのとき作家が何を解放できるのかというと、ストーリーを解放するのは難しいから、キャラクターを解放するんです。たとえば1話と2話があって、その間の話をつくっていいよとお題を出すと、やれる人ほとんどいないと思います。でもキャラクターの特徴を見せて、このキャラクターで4コマ漫画つくってとか、歌を歌わせてとか、イラスト描いてとかはできるはずなんです。

LUMiはキャラクターがしっかり立っているので、キャラクターをお題にするというのは、これからのコンテンツのあり方にあっていると感じています。

——いま、作品の出し方・出し先も増え、セルフマネジメントをする作家が増えていますが、この流れを佐渡島さんはどう見ていますか?

佐渡島

それはすごくいいことです。セルフマネジメントはやっていったほうがいいし、その作家のほうが強いんですけど、才能がある人って、1万フォロワー、10万フォロワーはさくっといきます。すると、そのフォロワーの人たちのフィードバックで作品をつくっていくことになります。だけど、フォローしてる人たちって、ファンだからその作品を引いた目では見ていないんですよ。

すると、その作家へのフィードバックはある種どんどん偏っているので、どこかで成長が止まってしまう。さらに10万フォロワーくらいいると、例えばある作品に僕が「これじゃダメだよ、直したほうがいいよ」と言っても、そのまま出して1000ファボとか平気でつく。だから僕は、それに対してかなり精度の高い作家の「鏡」になろうと思っています。社会全体を見渡した時に、作家が自分のポジションを築くために必要なフィードバックをします。

だからクリエイターのセルフプロモーションはすごく重要だけど、クリエイターはファンからのフィードバックはある種歪みがあるんだなということを理解しながら、編集と協力体制が築けるかどうかが大切だと、僕は思っています。

——最後に、これからのLUMiに期待することを教えてください。

佐渡島

LUMiがフィーバーする様子を見てみたい!吉澤さんはビジネス的な上手さを持っているから、LUMiが小さな成功を納めるための準備はかなりできているんです。でも、例えば今LUMiのグッズをつくっても絵を貼り付けたものしかできない。これはまだ、世界観が浅いから。世界観は作家から離れて人に任せていくとどんどん薄くなるので、薄くなっても濃いくらいのものをつくらないといけないんですよ。ネットをベースにしているから、いろんなタイプのビジネスができる。すると様々な方法でファンが世界観に触れることができるから、どんどんファンを楽しませることができる。ドラクエのカジノみたいなところって、終わったらずっと遊べるじゃないですか。そんな感じで、LUMiの中にカフェやスナックのように、毎回のストーリーに関係なくファンがたむろできる場所づくりなんかもつくれたらいいですね。

INTERVIEW / TEXT BY AYUMI YAGI

佐渡島 庸平編集者

2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)、『昼間のパパは光ってる』(羽賀翔一)、小説作品では『マチネの終わりに』(平野啓一郎)の編集に携わっている。
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