INTERVIEW

今回フォーカスを当てるのは、LUMi の公式曲「夜明けの詩」。
まだ聞いたことがないという方はぜひ、曲を聴きながらこのインタビューを読んでいただければ嬉しいです。しっとり優しいピアノのメロディーからはじまり、きらきら弾ける音の粒に壮大なサビまで、LUMi の魅力、「らしさ」がぎゅっと詰まったこの曲が、LUMi の公式曲。

今回のインタビューは、この曲を作曲したぶんたさん、プロデュースした日本コロムビア株式会社の貝塚さんのおふたりにお話を伺いました。

しっかり設定があるVOCALOID、LUMi

——まず、実際曲を作ってみて感じたLUMiの特徴を教えてください。

貝塚翔太朗(以下、貝塚)

これまでのVOCALOIDとは概念が違うところです。ニコニコ動画をはじめとしたカルチャーの中で、VOCALOIDは沢山でてきましたけど、あくまでもソフトウェアという扱いで、マネジメントをしようという発想のアプローチは、これまではなかった。それを一つの人格として扱っているのは、LUMiの個性だと思います。
LUMiには設定がガツンとあるんですよね。アニメーション映画の設定資料集が先にあがってきて、サウンドトラックをつくるという仕事に近かった。「夜明けの詩」は、サイトに載せるデモソングというよりも、サウンドトラックの中でも主題歌をつくるテンションでした。

ぶんた

僕はVOCALOIDを10本くらい持ってるんですけど、その中でもLUMi はすごく素直な声だなという印象があります。声が優しいので、つくっていて優しい気持ちにはなるし、アーティストが自分の家にいるような気持ちになります(笑)。一番好きなVOCALOIDになりました!

貝塚

それは僕も思いますね。生楽器と合わせても負けない。そこでバランスが取れるのは、元の大原さんの声の質のおかげです。

——おふたりがLUMiを周りにおすすめするなら、特徴やポイントはどこだと伝えますか?

貝塚

LUMiという人格があって、物語がアウトプットされていくので、これまでになかった遊び方ができるのが魅力だなと思います。曲を書く人たちのアプローチも変わってくる。打ち込みばかりじゃなくて生楽器ベースでもいけるし、作り手の方たちが新しい刺激を得られると思います。

ぶんた

素直になってくれる、教科書のようなVOCALOIDだと思ってるので、主にVOCALOIDを使う音楽クリエイターが最初に導入するのはLUMi になるといいなと思っています。LUMi のライブラリエンジニアの馬場さんも言っていますが、ダイフォンやトライフォンが全部収録されていることが、すごくさりげなく書いてあるんですよね。それってとんでもないことなのに! 人間の声に近づける一番大事なところだと思うので、そこまでしているVOCALOIDはLUMi だけということをみんなに知ってもらいたい。

——曲作りの酸いも甘いも経験されてるおふたりですが、曲づくりの楽しいところと困難なところを教えてください。

ぶんた

困難…しかないですよ(笑)。楽しいところもいっぱいあるんですけど。

貝塚

僕はモチーフを得るまでが大変で、こういうテーマの歌をやろうと考えるまでがいつも一番長いと思います。道歩いてて着想を得ることもあるので、何きっかけか本当にわからないんですけど、それを日々探していくのが大変です。

ぶんた

頭ではずっと曲のことを考えてるんで、やっぱり自宅で椅子に座って考えるよりはヒントを得られる可能性もあるし、気が紛れるってこともあるので、外に出た方がいいですよね。
あと、発注仕事だったら向こうが何を望んでるのかを一番に考えないといけない。相手が「ダメだ」と言ったら、自分の中でいくらよくても絶対ダメなので。メロディーがこれでいいのかっていうのも、少し時間をおきたいです。客観的に見てみたいので。基本的に、はじめはよく聞こえるんですけど、次の日、さらに次の日となるとちょっと印象変わったりするので、時間がない日は不安との葛藤も大変ですね。

——曲に限らず、ものづくりってどこにゴールを置くかが難しいですよね。

貝塚

本当にそうですよね。ぶんたさんはものを作る上で、伝えたいことが強いタイプですか? 僕はそれが全然なくて、だから今の仕事ができてるんだと思うんですけど。そこの想いが強いとアーティストになると思うんです。僕は「こういうのが欲しい」って言われたときにモチベーションを感じるから、座組みとしてはよかったんじゃないでしょうか。与えられないと、ゴールがないんですよね。

ぶんた

確かに、与えられないとゴール設定って難しい。自分で無理やり作り出すって感じですかね…。いち音楽クリエイターとして、アーティストに切り替えるときはあります。言いたいことを言った方が自分の色が出ますが、オーダーをいただいて曲を作る作曲家としての僕は違う気がします。

波は4分の4拍子じゃない

——「夜明けの詩」にもう少しフィーチャーしてお話を伺いたいのですが、貝塚さんがジョインするタイミングでどこまで進んでいたんでしょうか?

貝塚

もうほぼ、できていました(笑)。

ぶんた

いろんな音楽クリエイターの方と僕、それぞれで曲をつくるって感じだったんですが、後になって公式曲になっていたんです(笑)。

——貝塚さんが最後の仕上げをした、という流れですか?

ぶんた

そうですね。貝塚さんのアドバイスをいただいて、主にストリングス(弦楽器)セクションを作り直していきました。

貝塚

編曲もぶんたさんが自分で最後までやるスタンスでいきましょう、と決めて。こういうビジョン=音像を目指していこうという部分を話して、それを実践していく感じでしたね。そのイメージを寄り添わせるために、僕もAVA の吉澤さんに話を聞いて、みんなで擦り合わせて作業していきました。

ぶんた

先輩からの意見はすごく勉強になります。エンジニアの方にも、ストリングスの音色が悪いって何回も言われて、最終的に自分でパッチを組むというすごく面倒臭いことをしたんですけど、それですごく良くなったと言ってもらえて。それは自分の財産になりました。

貝塚

ストリングスは、すでにある素材を使う場合もあるんです。でもそうすると、あなたがやる意味ないでしょう? となる。すでにサンプリングされてる音源があって、機械で指示すれば鳴らしてくれるんですけど、それってそのまま鳴らすことにあまり意味はないと思っています。その人ならではの何かを絶対入れて欲しくて、そのこだわりが「だからこの人に頼もう」ということにつながっていくと思うんです。

——吉澤さんと話して貝塚さんにはどんなイメージが浮かびましたか?

貝塚

どの楽器を実際にレコーディングするのかも決まってなかったので、どうするのかを考えた時、物語のロケーションが鎌倉だと聞いたのはヒントになりました。明け方のシーンから始まる、季節は初夏で…波がザザーンとなってるんだろうなと。それのテイストがピアノのフレージングとかに出てるのかなって、曲を聞いた時に思ったんですよ。
実は初めてデモを聞いた時、「公式曲がこれでいいの?」って思ったんですけど…この曲変拍子なんですよ。「LUMi としての表題曲がこれです!」と思って聞くと、4分の4拍子じゃなくていいの? って思ってしまうんです。

——もうちょっと王道の方がいいんじゃないの? ということでしょうか。

貝塚

そうです、そうです。例えるなら、外角にスライダーを投げてボールになってるんだけど…バット振ってるね、みたいな(笑)。ストライクじゃなくて、ボールみたいな曲が一曲目に来るんだと。僕はキャッチャーとして「……うん。」みたいな(笑)。ちらっとベンチを見ちゃうような感じです。この曲、8分の6拍子と8分の5拍子が切り替わるんですけど、この感覚が多分、波なのかなと思います。波は4分の4拍子じゃないですから。波が揺らいでる感じをだすなら、ピアノをしっかり録ったほうがいいんじゃないかなと思ったんですよね。

ぶんた

実際、ピアノを録ったことで一気に説得力が増しました。それは本当に良かった。「夜明けの詩」はドラムやベース、ギターも録ってるんですよ。
ドラム、ベース、ピアノは一斉にアンサンブルで録りました。最初はまずはじめにドラムとベースを録ってから、その上にピアノをのせようと思っていたんですけど、貝塚さんが「3%の確率で、3人一気に録ったほうがより良いグルーヴが生まれていいものになるんじゃ…」とおっしゃって。

貝塚

2%とかだった気がするんですけど(笑)。

——最初2%だったのが、最終の出来としては何%だと感じました?

ぶんた

もう120%くらいいっていたと思います!

貝塚

近頃だと珍しい録り方ですよね、やっぱり。せーので録音することは、最近は少ないんです。

——夜明けの詩をイメージしていくために意識した点は?

ぶんた

最初に「深海」「港」とかのテーマをもらって、僕は「泡」や「水」といったど真ん中のイメージじゃなくて、「空間」をテーマに置いたんです。空間をテーマにした方が、AVA 吉澤さんのイメージにぴったりな曲になると思ったんです。レコーディングもちょっと広めのスタジオだったんですけど、鳴りが全然違うので大事なんですよ。楽曲にもぴったりのスタジオでした。

音楽クリエイターが使う最初の1本に

——これからのLUMi に期待する点は?

貝塚

冨田勲先生が「イーハトーヴ交響曲」って曲で初音ミクを使われていたんですが、オーケストラの中でミクが投影されて歌って踊っているように見えるエンタテインメントとしてのショーが完成していたと思うんです。音楽の消費のされ方、楽しみ方が過渡期にあると言われてはや何年というところですが、音楽の新しい消費のされ方、楽しみ方をLUMi が見せてくれたらいいなと思っています。

ぶんた

僕は、音楽クリエイターが使う一番のVOCALOIDソフトがLUMiになってほしいなと。素直で声もよくて、贅沢にダイフォン、トライフォンの音子が全部入ってるLUMiは本当にすごいと思うので。

——最後に、これから曲をつくっていきたいという方へのアドバイス、メッセージをお願いします。

ぶんた

誰もがいうことですけど、とりあえず作ってみようということですよね。まず一曲作って、そこから何曲も作る。自分がいいだけだと、世の中に出たときにまだ価値がないんですよね。自分で神楽曲ができたと思ってるだけだと意味がなくて、他人が言ってこそ価値があると思うんです。もちろん自分がいいと思う曲をつくらないといけないんですけど、相手にいいと言わせる楽曲をどうつくるか? を目指して欲しいなと思います。

貝塚

インプットとアウトプットのバランスを取るのが大事かなと思います。いまネットカルチャーの中だけで音楽に触れてると、そのバランスを取るのがすごく難しいと思うんですよ。VOCALOIDってすごく便利なんですけど、危険な面もあって、VOCALOIDばかりで曲を書いてると、実際のシンガーのディレクションってできないんです。そういうことを回避するためにも、しっかり音楽を聴くっていう作業をやって欲しいと思います。
たまには割といいオーディオで、時間をかけて一曲を何回も聴くみたいなことですかね。本気で聴けば、毎回何かの発見を得られます。それを自分の引き出しに入れておいて、バランスをとる。聴く環境も何パターンも持っておいた方がいいし、そのパターンを持っていることで、アウトプットのパターンが増えるんですよね。自分のメインの戦場は VOCALOIDだ! と決めるのはいいと思うんですけど、実際のシンガーとやってみるとかもすごく大事だと思います。打ち込みも絶対練習した方がいいし、バンドのアンサンブルの練習もやるべきだし、譜面も読めないよりはわかっている方が便利。オープンな姿勢を大事にしてくださいね。

INTERVIEW / TEXT BY AYUMI YAGI

日本コロムビア株式会社 プロデューサー 貝塚翔太朗


Berklee College of Music(バークリー音楽大学)にてFilm Scoring(映画音楽)とギターを専攻。同大学卒業後、フリーランスを経て日本コロムビアに入社。当初はロックバンドを担当していたが、テレビ番組の企画CD等のプロデュースを担当する傍らアイドルのプロデュースを開始。現在はアイドルレーベル「Label The Garden」を立ち上げ、所属アイドルのプロデュース・楽曲制作を手がけている。
https://twitter.com/shotarock_p


作曲家 ぶんた


東京音大卒業後、作曲家として活動中
https://twitter.com/bunta12345